松平信子(京都 藤原由紀乃後援会会員)
 
                   
「由紀乃さんへのお手紙」
12月1日のリサイタルは、子守歌からはいり乍ら、どんどんと熱気がこもり、アンコールが確か5曲に達してゆくにつれて、商業的サービスからは超越しているピアニスト藤原由紀乃さんではあるものの、仕事という意識を離れたリサイタルのごく自然のなりゆきから、曲とピアニストと聴衆がひとつに溶け合った興奮のうちに終始したのでした。カザルスホールという建造物までも人格化して目にするすべてのものが一体となって音楽に参加しているようでした。由紀乃さんの音につれて、移りゆく身体の動きも、まるであらかじめ予定されたように、一瞬の隙もなく音とともに在り、それぞれの曲の完了に、鮮やかにして見事なきっぱりとした静止がありました。完璧というものに血が通って肉化すると、こういう姿になるのだと、目を見張りました。音と形の見事な一致。それは弾く人の意思を超えたものです。天の意思に知らず知らずに操られて生じたものなのでしょうか。アポロン的な美しさといいましょうか…。ラ.カンパネラは去年の9月7日にフェニックスで聞いた時も手紙で書きました通りの深い感動をおぼえましたが、その1回目から4回目のものでした。1回目、3回目、4回目の12月1日と、豊かな成熟ぶりがはっきりと感じられました。このような成長が無限に続くと、あなたのカンパネラは何処に行きつくのでしょうか。恐いようなものがあります。他者への13年にわたる奉仕、そして帰国後3年に及ぶ跳躍の時節を経て、この12月1日の夜、メジャーとして広く日本に再び復活を遂げたのでした。おめでとうございます。あの様なリサイタルには、演奏者としても聴衆としても生涯、二度と会えるかどうかわからないのではないでしょうか。藤田晴子さんがなくなられましたね。藤田さんにあの夜の光景を見ていただけなかったこと残念にお思いのことでしょう。でも生涯の最後に、先生の空前絶後の激賞をあのショパンのC.D.に勝ち得られたことの幸運をかみしめて下さい。それがあなたにふさわしいことと思います。来年の1月30日の8時5分、再びあの会場に参加できることをわくわくしながら待っています。